ハワイ留学での2年間は、私にたくさんの「当たり前」を問い直させてくれた。
その始まりは、意外にも「家」だった。
今でも、新しい場所で暮らし始めるとき、私は「ここは心から落ち着ける場所だろうか」と考える。
家は、ただ寝る場所ではない。
毎日帰ってくる場所であり、心を休める場所。
そう思うようになったのは、ハワイで最初に暮らした1か月があったからだ。
ハワイで最初に選んだ場所
ハワイ留学を決めたとき、一番最初に悩んだのは家探しだった。
日本のように現地へ行って内覧することはできない。
当時の私は、留学支援センターと提携している物件の中から選ぶしか方法を知らなかった。
「最初の1か月だけは支援センター経由で住んで、そのあと現地で自分で探そう。」
そう決めて選んだのが、ワイキキにある「アイランドコロニー(愛称:アイコロ)」だった。
ワイキキでは人気のコンドミニアムで、旅行でも利用する人が多い建物だ。
ただ、私は仲介を通して契約したこともあり、家賃は1か月3,400ドル(2016年当時)。
学生が住み続けられる金額ではなかったので、最初から1か月だけと決めていた。
後から知ったのだけれど、現地で直接契約すれば、
同じ建物でも1,500ドル前後で借りられる部屋も少なくなかった。
当時の私は、それしか方法がないと思っていた。

理想と現実のあいだで
家賃は正直、想像以上だった。
けれど、本当に毎日の生活で苦労したのは、文化の違いだった。
私は昔から少し潔癖なところがある。
日本では玄関で靴を脱ぐのが当たり前。
だから、土足で生活する部屋なのに絨毯が敷かれていることが、
どうしても受け入れられなかった。

「これ、本当に清潔なのかな。」
アレルギー体質ということもあって、一度気になり始めると、家の中でも気が休まらなかった。
今までの「普通」が通用しない毎日
洗濯機は部屋にはなく、4階にある共同ランドリーを使う。
住んでいる人数に対して台数が少なく、空くまで待つこともしょっちゅうだった。
洗濯が終わる頃にまた4階へ行き、乾燥機へ移す。
乾燥が終われば、また取りに行く。
それがほぼ毎日のように続く。
しかもランドリーは半分外のような造りで
ゴキブリを見かけることも少なくなかった。
下着がなくなってしまったこともある。

ハワイでは、少なくともワイキキ周辺では洗濯物を外に干すこともできない。
日本では当たり前だった暮らしが、ここではまったく当たり前ではなかった。
家なのに、落ち着けない。
築年数の古い建物も多く、水回りのトラブルも珍しくない。
お湯が出ない日もあった。
設備も決して新しくはない。
旅行なら数日だから気にならないことも、暮らしになると毎日の積み重ねになる。
家は、一日の終わりに帰る場所。
ホッとできる場所であってほしかった。
でも、あの頃の私には、「帰りたい」と思える家ではなかった。
ラナイで深呼吸をする時間
そんな中で、唯一大好きだった場所がある。
ラナイだった。
心地よい風が吹き抜け、目の前にはハワイらしい景色が広がる。
ラナイに座っている時間だけは、
「やっぱりハワイに来てよかった」と思えた。
旅行では気づかなかったハワイの風を、毎日感じられる。
その時間だけは、私にとって特別だった。

「住む」とは、居場所をつくること。
その1か月で私は、「旅行」と「暮らす」はまったく違うものなんだと実感した。
住む場所は、ただ寝る場所ではない。
毎日の気持ちをつくる、大切な居場所なんだ。
あれからハワイで2年間暮らす間に、私は全部で4つの家に住むことになる。
そして、そのたびに少しずつ、「自分にとって心地いい暮らし」を知っていった。
最初の1か月は決して快適ではなかった。
でも、あの経験があったからこそ、「どんな家に住みたいか」ではなく、
「どんな毎日を送りたいか」を考えるようになった。
私の本当のハワイ生活は、ここから始まる。
